【学校コラム】大学生が「キャリアを学ぶ」意味を考える(Ⅴ)キャリア・アンカー
前回コラムで 「内発的モチベーション」について述べましたが、この内発的モチベーションは、自分自身の根底にある「価値観」や「欲求」「判断基準」など、いわば自己の核とも言える「キャリア・アンカー」という要素と大きく関係しています。この「キャリア・アンカー」は、自分自身を知りキャリアを考えていくうえで、また内発的モチベーションを有効活用したり高めていくための大切な概念であり視点となりますので、ぜひ大学生にも知っておいていただきたい事柄です。
そこで今回は、「キャリア・アンカー」について考えてみたいと思います。
(1)キャリア・アンカー(Career Anchors)とは?
キャリア・アンカーは、エドガー・シャイン(Edgar Henry Schein/組織心理学者)が提唱した概念で、自分自身のキャリアを選択する際(生き方、職業や職種、勤務先などを選ぶ際等)の「判断基準」となるものであり、自分の生き方を方向付ける役割を果たすもの、「自分らしさ」や「自分らしく生きる」ために必要な自己概念であると言えます。
主に下記3要素であり、「自己概念の核」として捉えられています。
①自らのキャリアを選択する際の「判断基準」となるもの
②「最も大切な(どうしても犠牲にしたくない)」価値観や欲求
③周囲が変化しても「自己の内面で不動」なもの
この概念は、アンカーという言葉の意味を考えると、分かり易くなります。アンカーは、船が停泊する時に流されないように海中に下ろす錨(碇、いかり、アンカー、Anchor)のことで、どのような港であれ気候条件であれ、自船のアンカー(錨)をおろすことで「安心」して停泊することができます。このことから、生き方や働き方の過程で様々な変化条件があっても、自分らしさを維持する「拠りどころ」としてアンカー(錨)が機能する、と理解することができます。
(2)キャリア・アンカーのポイント
①自己概念の核となる判断基準(自分の特性、価値観、やりたいこと、大切なこと等)であるため、「早く見つけ、きちんと認識・理解すること」がキーポイントとなる
②「自分のキャリア・アンカーを目指してキャリアを積んでいくこと」が、自分自身の満足感につながる
③しかし、人生の節目(就職、留学、結婚、昇進、異動、転職、退職等のターニングポイント)に直面した時に初めて、自己概念にぶつかり、自分のキャリアアンカーに気づくことが多いので、そういった際にしっかりと向き合うことが大切になる
上記③で述べたように、社会に出始めたばかりの20代の頃は、多くの場合、自分自身のキャリア・アンカーを明確に把握できていないものです。生きて行く上で何が自分にとって重要なことなのか、自分らしく働ける仕事や職場とはどんなものなのか、自分は本当に何をどうしたいのか・・・。このようなことは、多くの人が、実際の生活での節目(就職、留学、結婚、昇進、異動、転職、退職等のターニングポイント)を通じて実感し、「自分はそうなのだ」と自覚しているのだと思います。そう考えると、30歳前後が、最も自分のキャリア・アンカーを捉えやすい時期なのかもしれません。
自分のキャリア・アンカーを早く見つけるにこしたことはありませんが、焦らずに、しかし「節目には、しっかりと自分自身に向き合う」ことが大切なのだと、ぜひ心がけましょう。
(3)8つのキャリアアンカー
エドガー・シャインの研究によると、キャリア・アンカーは、8つに分けられます。
これから様々な経験を経ながら自分自身のアンカーを自覚していくためにも、念頭に置くと良いでしょう。
①「自律と独立」のアンカー=自分で独立すること(を望むこと)
②「安全・保障性」のアンカー=安定的に1つの組織に属すること(を望むこと)
③「専門・職能別」のアンカー=自分の専門性や技術が高まること(を望むこと)
④「管理能力」のアンカー=組織の中で責任ある役割を担うこと(を望むこと)
⑤「起業家的創造性」のアンカー=新しいことを生み出すこと(を望むこと)
⑥「奉仕・社会献身」のアンカー=社会を良くし他人に奉仕すること(を望むこと)
⑦「純粋な挑戦」のアンカー=解決困難な問題に挑戦すること(を望むこと)
⑧ 「ワーク・ライフバランス」のアンカー=個人的な欲求、家族、仕事のバランス調整をすること(を望むこと)
(4)キャリア・アンカーを考える「3つの問い」
キャリア・アンカーは自己概念ですので、自問自答によって、自覚し把握していくことができます。
その中でも、以下の「3つの問い」を自分に問いかけ、少しづつ自覚していくことが大切になりますので、ぜひ意識するようにしてください。
①自分の強み、弱みは何か? 自分の能力、有能な分野は何か?
②自分を突き動かすような、動機、欲求は何か? 何を望んでいるのか、目標とするのか?
③自分の価値観、判断基準は何か? 自分の価値観と一致することをやっているか? やっていることへの満足、誇りは?
キャリア・アンカーは「自分は、どのようにありたいのか」を拠りどころにして、自分のキャリア形成をデザインしていく考え方ですが、一方で「環境変化に対応しながら、アンカーを下ろしていく」ことも、変化が早く大きい時代には重要になります。現在の大学生は、まさにそのような「変化の時代」に船出していくことになりますので、学生時代に「変化の時代のキャリア・アンカー、内発的モチベーション」ということを考えていく必要があると思います。
次回、キャリア・アンカーを発展的に捉え「変化の時代のマインドセット」について、考えていきます。
文責:NKS能力開発センター 恵 大介
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